麻酔科
anesthesiology
獣医療の進歩により犬・猫の平均寿命は高齢化しています。これに伴い、種々の病気の診断やその治療過程において麻酔処置のニーズが高まっています。一方で、獣医領域では高齢であったり、状態が悪く麻酔リスクの高い犬・猫の処置は種々の理由から断られることがあります。加えて、検査や手術に伴う痛みに対しても軽視されがちな傾向があります。当院には麻酔科の獣医が常勤しているため、こうした問題を解決できます。また、疾患だけでなく、その子その子に応じて調整した(≒テーラーメイドな)麻酔を提供することができ、これは麻酔科のある当院の強みの一つです。病気や痛みに苦しむ犬・猫の苦痛や、飼い主様のご不安を払拭できると思いますので、麻酔やペインコントロールに関するお困りごとがありましたら是非お気軽にご相談ください。
麻酔のリスク因子
※因子をタップすると詳細が表示されます。
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年齢
犬でも猫でも高齢になると、特定の疾患と診断されずとも、臓器の機能や薬剤に対する反応性、侵襲に対する身体の認容性が低下するため麻酔が難しくなる傾向があります。また、罹患疾患が複数合併することで、使用可能な処置や薬剤に対する制限が加わり、同様に麻酔が難しくなる場合も多くあります。一方で、逆に若齢の場合でも成体と異なる生理学が働くため、麻酔管理の難易度が高くなる傾向にあります。
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品種
フレンチブルドッグやパグなどの短頭種は生まれつき解剖学的に呼吸に制限があります。そのため年齢や疾患に関わらず、麻酔に関して一定のリスクがあり、麻酔処置が敬遠されたり、処置前後で命を落としてしまうこともあります。ただし、難儀なことに短頭種はその診断や治療に麻酔を要する疾患を発症しやすい傾向にあります。
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罹患疾患
患っている疾患によって種々の制限や注意すべき点が異なっております。また、同じ疾患、例えば心臓病や腎臓病でもそのステージつまり重症度によって麻酔のリスクは全く異なってきます。重症度を理解し、その病態生理に基づいて細やかな麻酔管理が必要とされます。
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体格
獣医療はよく小児科に例えられます。本人(≒犬・猫)が症状の説明をうまくできないため、保護者(≒飼い主様)がこれを代替し、また治療の意思決定を行うからです。小児科もそうですが、人間の能力や器具・器材のサイズの問題があるため体格が小さくなればなるほど、病気の診断や治療、麻酔、手術等の難易度は高くなります。
処置内容
treatment
短時間の処置や犬・猫の不安を軽減させるために用いられます。基本的には後述の挿管は行いません。
長時間の麻酔下検査や手術の場合に用います。基本的には気管にチューブを挿管し、人工呼吸を併用します。麻酔関連合併症を生じないよう過不足ない麻酔を行っていきます。
動脈に針を刺入し、直接的に血圧をモニタリングするテクニックです。ヒト医療では手術の場合、ほぼ必須でモニターしているものですが、残念ながら動物病院ではほぼ見られていないモニター項目です。当院では麻酔症例に対する安全性を担保するという観点から、可能な限り全例でモニターするよう心がけております。
理論上痛みを完全に遮断できるテクニックです。犬・猫に痛みのストレスを与えないよう、当院の手術では積極的に神経ブロックを併用しております。結果として他の鎮痛剤を減量可能であったり、なにより手術を受けた本人が痛みに苦しまず穏やかに覚醒します。
重度の肺疾患や発作重積、気道閉塞など自らの呼吸や行動をうまくコントロールできない場合や発作の治療の一つとして、麻酔をかけたまま数時間〜数日寝かせ続けるテクニックです。人工呼吸管理中は常にスタッフが張り付き、細やかなコントロールを行い、原疾患のコントロールがつけばウィーニングを行っていきます。
代表的な疾患
disease
心臓は全身に血液を供給している重要臓器です。そのため、麻酔をかけた際に循環がうまく維持できなくなってしまうと、処置後に肺水腫の発症や、最悪命を落とすこともあります。とりわけ高齢の小型犬では心臓病を罹患していることが多く、上記の理由より、麻酔処置が敬遠されやすい傾向にあります。当院の麻酔科では開心手術での麻酔経験も含め、心臓病を罹患した犬・猫でも細心の注意を払いながら、日常的に麻酔処置を実施しております。
腎臓は体内の老廃物を尿として体外に排出したり、血中のミネラルを精密にコントロール可能な唯一の臓器です。腎臓病に罹患するとこれらの機能が損なわれることに加え、一度低下した腎機能は基本的には元に戻りません。そのため、心臓病と並んで麻酔を断られることの多い病気の一つです。重症症例では後述の肝機能低下と併せて腎機能低下が認められることも多く、その管理の難しさからやはり麻酔が忌避されることが少なくありません。当院麻酔科では重症例の麻酔経験も豊富であるため、腎臓病罹患症例でも必要に応じて、麻酔処置を行っております。
肝臓は吸収した成分を生体が使用可能な成分に生合成したり、体内の有毒成分を解毒する機能を有しております。肝機能低下は多くの重症疾患に併発することが多く、結果として栄養状態の不良や発作などを起こすことがあります。原疾患の治療に麻酔処置が必要となることも多く経験されますが、麻酔薬も生体にとっては不要なものであるため肝機能低下症例への麻酔のかけ方によっては処置後覚醒できなくなることもあります。前述のように当院麻酔科では重症例への麻酔処置も含め、PSS(門脈体循環シャント)や肝葉切除の麻酔管理も多く経験しております。特にこれらの手術時に操作する上腹部は痛み刺激の強い部位ですが、上述の神経ブロックを併用し、可能な限り無痛での処置を目指しております。
あまねく生物は呼吸を行うことで必要なエネルギーを産生しているため、呼吸器の変調は生命維持の破綻に直結し得ます。検査や手術に必要な場合の麻酔処置もそうですが、当院の麻酔科ではその生命の維持において人工呼吸管理が必要な症例に対する治療経験も豊富であるため呼吸困難症例の受け入れも行っております。
犬・猫の平均寿命の高齢化に伴い、脳や脊髄に疾患を抱える動物たちにも麻酔をかける機会が増えてきています。神経疾患は中枢(≒脳、脊髄)および末梢神経疾患に大別されます。疾患の発症割合は前者が圧倒的に多く、一部の重度頸髄疾患や脳疾患の場合、リスクが高いとしてやはり麻酔処置が敬遠されます。当院麻酔科では重症の神経疾患に対しての治療的な人工呼吸管理も行っており、良好な成績をおさめております。当院では神経科も開設しているため連携して治療にあたることが可能です。
治療・手術例
surgical example
重度の心機能低下症例に対しても全身麻酔を施行しています。
骨を切断するため痛みの強い手術ですが、当院では神経ブロックにより無痛で手術を行っております。
神経ブロックにより無痛での手術はもちろんのこと、術後必要に応じて人工呼吸管理をすることもあります。