猫びまん性虹彩メラノーマ(Feline Diffuse Iris Melanoma)の最近の知見について - 千葉seaside動物医療センター|習志野市津田沼の動物病院(千葉シーサイド)

猫びまん性虹彩メラノーマ(Feline Diffuse Iris Melanoma)の最近の知見について

眼科 森 尚彦
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FDIMとは?

猫びまん性虹彩メラノーマ(以下FDIM)は緩徐に進行する腫瘍性疾患で、虹彩における巣状の色素沈着から悪性転換していく病態です。初期には虹彩の異常な色素沈着(虹彩メラノーシス)として認められますが、後期には虹彩の不整形な結節病変を形成し緑内障を引き起こします。これらの病変の挙動を予測するのは難しく、数ヶ月〜数年にかけて静止あるいは非常にゆっくり進行し虹彩の外観の変化のみを認めるものもいれば、急速に進行するものもいます。虹彩メラノーシスから初期のFDIMへ移行したかどうかの判断は病理組織検査が必要であり、虹彩実質への異型性のあるメラノサイトの浸潤を特定します。

FDIMは、虹彩、隅角、毛様体へと病変を広げ、最終的には強膜を貫通します。腫瘍細胞が虹彩実質へ浸潤するため虹彩の肥厚、瞳孔不整や運動性の低下が起こり、隅角へ浸潤することで続発緑内障を生じます。また眼内に病変は留まらず全身臓器へと転移を引き起こします。

FDIMの転移や予後の予測は思った以上に難しい

1)早期病変は虹彩メラノーシスとして知られる

FDIMの早期病変は虹彩表面の色素沈着(メラノーシス)から始まります。この病変は数ヶ月〜数年かけて緩徐に進行することが一般的ですが、進行しない場合もあれば、時に急速に進行する場合もあり、臨床経過の予測は困難です。メラノーシスから腫瘍期へ移行しているか否かの評価には病理組織学検査が必要です。病理組織学的評価のためには虹彩生検が必要となります。

2)FDIMは進行に伴い全身への転移リスクが上昇

FDIMは房水を介した腫瘍細胞の播種が転移の経路として示唆されており、強膜静脈叢を介した血行性転移である可能性が最も高いと考えられます。眼球内にはリンパ管が存在しないため、リンパ行性転移が起こるには腫瘍細胞が強膜を貫通する必要があります。転移は肝臓、脾臓、肺、腎臓、脳、骨、リンパ節など多臓器に起こり、転移率は19-63%と幅広いです。また、診断時から転移により死亡するまで数年の潜伏期間があったとの報告もあります。

病理組織学的にFDIMは色素沈着期、初期、中期、後期(進行期)に分類され、中期移行になると転移率が上昇します。初期の眼球摘出が根治をもたらしますが、個々の症例で進行スピードが様々であるため眼球摘出のタイミングを悩むケースは少なくありません。

3)FDIMに対する治療のジレンマ

FDIMの治療法は現時点では眼球摘出術のみです。病期の進行に伴い全身転移のリスクが上昇し、「中期」「後期」で実施した症例では生存期間が短くなることが報告されています。現在の獣医医療では、メラノーマはひとたび転移が生じると有効な追加治療がありません。このことから、早期(FDIM初期あたり)の眼球摘出が根治を狙えるチャンスがとても高いといえます。

腫瘍期でも中期や後期になると、腫瘍細胞が虹彩表面から深部へと浸潤していくため虹彩肥厚や瞳孔形の変形が生じます。また隅角へと浸潤することで眼圧上昇(続発緑内障)が生じます。よって、上記の所見を認めた場合には、例え視力が残っていたとしても眼球摘出を強く推奨します。しかし、続発緑内障は予後不良因子(生存率▶︎緑内障あり:21%、緑内障なし:73%)であり、眼圧上昇を治療介入のタイミングとして捉えるのは遅すぎると考えます。

4)当院における検査

一般的な眼科検査を行います。視覚の評価や、眼圧検査、顕微鏡で拡大しながら眼球内を観察します。また超音波検査で虹彩の厚みや、隅角鏡検査で隅角への腫瘍細胞の浸潤の有無を評価します。ここまでの検査で明らかにFDIM中期-後期が疑われる場合には早期の眼球摘出をご提案します。その場合には転移有無の評価のために、胸部レントゲン検査、腹部エコー検査、CT検査等の画像検査も必要になります。

一方で、瞳孔径の左右差がなく、虹彩の盛り上がりや肥厚、隅角への浸潤所見がない場合には、FDIMの初期あるいは色素沈着期(メラノーシス)の可能性が高く、この場合両者を臨床的に鑑別するのは困難です。この際には虹彩生検での組織検査が必要となります。少数ではありますが、検査の有用性も報告されています。しかし、まだまだ症例数が少ないこと、検査に伴う合併症や、全身麻酔の必要性、費用、あくまで現時点での診断であり今後病期が進行する可能性などを考慮すると、積極的に検査を推奨できないのも納得できます。

Spotlight

FDIMは猫特有の病期であり、早期病変は虹彩の色素斑(メラノーシス)から始まり、腫瘍期へと悪性転化していく疾患である

病期の進行に伴い全身転移のリスクが上昇する

現在のところ眼球摘出術が唯一の推奨される治療法ではあるが、FDIMの挙動を予測するのは難しく治療実施のタイミングは飼い主と獣医師が十分に話し合い決定するべきである

色素沈着期(メラノーシス)とFDIM初期を臨床的に診断することは困難であり虹彩生検による組織検査により鑑別できる。

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